たか@仮面女子水野ふえちゃん単推し日記

ただの日記。思ったことを書こう。

妖怪:猿神

昔々、とある村があった。
その村に巡礼の僧が訪れた。
村を進んで行くと、
娘が泣いていた。
その娘の父母と思われる村人も泣いていた。
  
僧は、泣いている村人に話しかけた。
「私は、巡礼の旅に出ている僧侶で、行念と申します。何を泣いておられるのです。」
娘の父親が、行念に縋るように、事の次第を話した。
「この村では、毎年、実りの時期になると若い娘を山の社に住む山の神に捧げなければならいのです。そうしなければ、大暴風で田畑を荒らされてしまうのです。
そして、今年は、私の娘を捧げることになったのです…
娘が不憫で不憫で…」
  
それを聞いた行念は、
「神様が人間を食べるはずは、ありません。私が身代わりになって、正体を見届けましょう」
「お坊様、ありがとうございます。娘を娘を助けてください…
7日後です。娘を差し出さなければならないのは…7日後です。」
  
それを聞いた、行念は、すぐさま社のある山へ登っていった。
社の近くには、松の洞窟がある。
そして、社の周りには大きな足跡のようなものがところどころにあった。
行念は、この足跡の主である化物が神と偽っているのではないか?
その化け物たちが社に貢物を探しにやってくるのではないか?
  
そう思い、松の洞窟の中に隠れた。夜中になり、やはり、何者かが集まりだした。
そのものたちが、変な歌を歌い出した。
「あのこと、このこと、聞かせんな。
近江の国の長浜の
しっぺい太郎に聞かせんな
すってん、すってん、すってんてん…」
これを聞いた行念は、山を降り、しっぺい太郎というモノを探しに近江国の長浜へ向かった。
近江までは、2、3日の距離だ。
しっぺい太郎を探す時間は、2日しかない。
時間がない。
行念は近江国長浜に着くやいなや通りゆく人、立ち並ぶ長屋一軒一軒にいたるまでしっぺい太郎という人を知らないか聞いて回わった。
しかし、帰ってくる言葉は皆同じで「知らんなぁ」と言うばかり。
時間がない。
しっぺい太郎はどこにいるんだ…。
行念は、焦りながらも根気強くしっぺい太郎の事を聞いて回った。
夜中も寝ずに探し回った。
それでも、手がかりすら得ない。
時はいたずらに過ぎてしまった。後1日もない。早く見つけて村に戻らなければ…
とはいえ、歩き疲れた行念は、一休みする為、茶屋に入った。
行念は、村の娘の事を思い。
「このままではまたあの化物どもに娘が喰らわれてしまう
なんとかせねば…
なんとかせねば…」
とつぶやいた。
  
そして、茶屋の女将にしっぺい太郎という男の事を聞くと以外な言葉が帰ってきた。
「しっぺい太郎? 人じゃないんだが、お寺の犬の名がしっぺい太郎やけど…」
行念はハッとした。
眼の前がスーッと明るくなった。
「化物め!
男ではなく犬を恐れておったか!」
そう言って、すぐさま行念は女将に聞いた寺に駆け込んだ。
  
寺の境内では、子犬ではあるが、凛々しい犬が遊んでいた。
ほのぼのとした笑顔で遊んでいる子犬を眺めている和尚に駆け寄り、必死の形相で行念が和尚に懇願した。
「和尚様!あなたのしっぺい太郎をお借りしたい!」
「急に言われましても…」
と和尚は困った顔をした。
得体の知れない僧に、いきなり犬を貸してくれと頼まれて、二つ返事で貸してくれるはずはない。
行念は、焦る気持ちを抑え、経緯と村人がいかに酷い仕打ちを受けているかをコンコンと和尚に話した。
和尚は聞き終わると、
「しっぺい太郎はただの犬ではございません。山犬の子なのですわ。
今春、山犬が子を産みましてな。母犬と一緒に世話をしてると情が移って一匹置いていくように頼んだのです。すると母犬はわかったように太郎を置いていきました。」
和尚の傍らで全ての話を聞いていたしっぺい太郎は、解ったと言わんばかりに行念の足元にやってきた。
「この子もやる気のようや。太郎をよろしく頼みました」
和尚は、そう言って、しっぺい太郎を貸してくれた。
  
行念はしっぺい太郎を連れて急ぎ村に帰った。
村人にしっぺい太郎の事を話すと半信半疑だったが、行念の言う通り、準備を始めてた。
  
毎年、娘を入れていた長持にしっぺい太郎と行念が入った。
そして、村人はその長持ちを担ぎ、山の社に向かい。
例年のように長持ちを置いて、村人は去っていった。
しっぺい太郎と行念は、長持ちの中で息を潜めて待った。
  
すると、先日聞いたに不思議な声が聞こえてきた。
「恐ろしや・・・恐ろしや・・・しっぺい太郎が恐ろしい・・・ここに太郎はおるまいな?」
「今宵もしっぺい太郎はおりはせん」
続いて、長持がドコドコと叩かれた。
どうやら、長持ちを叩いて音頭をとっているようだ。
歌い出す。
「あのことこのこと聞かせんな
しっぺい太郎に聞かせんな
近江の国の長浜の
しっぺい太郎に聞かせんな
すってんすってんすってんてん」
  
そして、長持が開いた!
途端にしっぺい太郎はウオーーーンと唸り黒い影を一つ噛み殺した。
一瞬の出来事だ。
  
「しっぺい太郎か?
なぜ、ここに!!」
そういうと黒い影は慌てふためいた。
行念は鬼灯のように真っ赤な目がギラギラと輝く恐ろしき化物の正体を見た。
それは年を経て大きく変化した猿の化生「狒狒」であった。
  
しっぺい太郎は次々と抵抗する狒狒どもを爪で裂き、噛みちぎる。
「ギャーーー! ヒィーーーー!」
狒狒の悲鳴が真っ暗な山の中にこだます。
何匹いるのか、バタバタとしっぺい太郎が倒していく。
  
元武士であった行念も力になろうと刀を抜き放ち化物と交戦した。
狒狒の群れの大将であろうか、一番大きな狒狒が、行念に向かって叫んだ。
  
「おのれかぁ!
おのれがしっぺい太郎を連れてきたかぁ!!」
そういうとその一番大きな狒狒と共に数匹の狒狒が一斉に行念に襲いかかってきた。
元武士である行念。
化物の攻撃をするっと交わし、狒狒を切りつける。
切られた狒狒が叫ぶ。
「ぎゃぁーーーー」
  
行念、しっぺい太郎
狒狒たちとの戦いは、夜が明ける頃まで続いた。
群れの大将と思われる一番大きな狒狒だけが残った。
さすがの行念もヘトヘトだ。狒狒につけられた傷もある。
  
最後の狒狒が、怒りだろうか? 恨みだろうか?
真っ赤な眼差しで行念に向かって飛びかかって来た。
とその時、しっぺい太郎が行念の前に躍り出て、狒狒に飛びかかり、狒狒の喉を噛み切った。
最後の狒狒の断末魔が山に響き渡った。
終わった。
無数の巨大な猿の亡骸が社の周りに倒れている。
  
行念は、全ての化物が倒されたことを喜び、しっぺい太郎に感謝した。
「しっぺい太郎。ありがとう、これで村は救われた」
  
行念もしっぺい太郎も怪我を負いましたが命には関わる程のことはなく、山を降り村に帰った。
行念は村人を連れて再び神社に戻り、事の次第を説明した。
  
村人たちは恐れおののいた。
化物に騙されていた自分たちを攻めるしかなかった。
そして、行念としっぺい太郎に感謝を重ねた。
  
行念はしっぺい太郎をつれて長浜のお寺に帰った。
しっぺい太郎は直ぐに傷を癒やして元気に遊びまわり、傷の癒えた行念は、再び巡礼の旅に出ていった。

☆猿神について☆

猿神とは、猿の妖怪で、人を喰うと言われている
猿神の特徴として、人よりも大きい猿(狒狒とも呼ばれる)。犬(山犬)に弱い。
猿神と呼ばれるものとして、 山の神やその神使としての猿神や、中国・四国地方で伝承される憑物としての猿神も存在する。
ちなみにインドにはハヌマーンなどの猿の姿をした神もいる。